愛と煙草を天秤にかける(第一話)

いつだって欲しいものは簡単に手に入りやしない。
だからこそ、やっとの思いで手に入れたものを大事に大事にするのは当然のことだろうと、そう思うのだ。
それがどんなに空振る想いだとしても・・・・・・



今にも雪が降ってきそうな寒空の下で煙草をふかすのはかわいーかわいー弟に嫌がられないためだ。
旅をやめて数年。
現在は軍系列研究所で人間の細胞について研究している。
研究自体は面白く飽きは来ないのだが、たまーに外へ飛び出して人間相手に何か盛大にやらかしたい気分になる。
いくら現在は「戦争にでるのが嫌なんで、研究所で研究に励みます」っていったって、そこは過去の大活躍が許さない。
鋼の錬金術師として各所で盛大に暴れまわっていた昔の青かった俺。研究で引きこもってたとしても、その過去の偉業により有事に呼び出される可能性は無きにしも非ず。
なのに、呼び出されていったは良いが、活躍する間も無く負傷して帰還なんて赤っ恥じもいいところだろう。
旧い知り合い等に知られたら酒の肴になるのは勿論、ダブリスの師匠に知れたら、破門どころか俺の命はない。断言できる自信がある。

そんなわけで、時たま酷く身体を動かしたくなる。だがいつも俺の相手をしてくれた弟は現在大学院でお勉強中。もちろん俺が無理やり通わせたので「身体がなまっているから、組み手の為に学校サボれ!」なんて非常識なことは言えない。言わない。かといって、どこかの焔のおっさんのようにサボるつもりも毛頭ない。
そうなると俺のフラストネーションは溜まりに溜まって体の中をぐるぐる回る。
身体に悪い。
フラストネーション解消のためどうするか。
錬金術以外にはとんとめぐりの悪い頭が至った解決法は煙草。
まぁ、近くにいた大人が散々吸っていたって言うのも原因の一つかもしれない。



煙草に火をつけたら、ゆっくり吸いゆっくり吐き出す。深呼吸するように俺は煙草を吸う。
一度、部屋で煙草を吸っている姿をアルフォンスにみつかりこっぴどく絞られた。
身体に悪い!そんなんだから身長が伸びないんだ!煙草やるくらいなら牛乳飲め!!とカチンとくる台詞と一緒に盛大に嫌がれた。そのうえ、煙草の灰を落として資料を燃やしたらどうするのさ、とまで心配された。
ちょっとまて、そんなに俺は頼りなさ過ぎるのかと反論したら「兄さんはいつもどこか抜けてるんだよ」としゃあしゃあと抜かしやがった。
ああ、確かに兄ちゃんはお前よりも抜けてますよ。けどそこまで言うことないだろう・・・・・・
何はともあれ、弟のアルフォンスは煙草の煙がそうとう嫌なようだ。
というより、身内の俺が吸っているのが嫌なのかもしれない。
けど、俺は煙草を吸いたくなるときがある。内緒で部屋で吸っていても臭いで丸分かり。


じゃあどうするか。



結論は研究所の俺専用のへやの窓でふかす。


所謂、ホタル族。



そこまでするなら禁煙しろと突っ込まれそうだが、たまになのだから勘弁して欲しい。そしてたまの喫煙で弟に嫌われないための解決策なのだからむしろ、暖かい目で見守って欲しい。


そうして俺は今日も煙草をふかす。

愛する弟に嫌われないように注意しながら。


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(2007年2月25日から2007年3月14日までウェブ拍手として公開。)